開催レポート 第8回お能への誘いの会「山姥」

2019年4月20日(土)開催 第8回 武相荘お能への誘いの会「山姥」
能楽師 シテ方喜多流 友枝雄人氏
能楽師 小鼓方幸流 成田達志氏
解説・司会 青柳恵介氏(古美術評論家 五蘊会会長)

「よし足引(あしびき)の山姥が。よし足引の山姥が山廻(やまめぐ)り、するぞ苦しき」

〈青柳〉

  • 晩年、白洲(正子)先生は山姥のこの言葉を自分のことのように言っておられました。
  • 山姥、楽じゃないよ。ということを仰っていた。

ものがたりの解説——青柳恵介氏

最初は、青柳先生によるものがたりの解説。
テキストを追いながら「山姥」を読み解くヒントを教えてくださいました。

  • 京に、山姥の舞を舞って人気を博す若い遊女(百ま山姥と異名をとる)がおりこの遊女があるとき、親の追善のため善光寺参りを志した。
  • 遊女は、越後と越中の境川の分岐点で、お参りをするのだから、とあえて厳しい道のりを選んだ。
  • 山中での異変。山中で突如として日が暮れてしまう。途方に暮れている一行に、宿を申し出てきた里女(実は本当の山姥)との遭遇。里女は遊女に山姥の歌を一節歌ってくれないかと乞う。やがて自分こそが本当の山姥であると明かす。
  • 恐ろしく険しい山中の景色。それを背景に、夜になり、いよいよその姿を現す山姥。
  • 自分は善悪を超えた世界にあると言っている。
  • 遊女に真実を突きつける厳しい一面を見せる。しかし最後にはあはれ、やさしさへ繋がっていくものがたり。

鼎談・その1

〈青柳〉

  • 友枝先生と成田先生に、このお能、山姥とはどのような曲か、まず伺っていきたいと思います。

〈友枝〉

  • 日本は山岳の国ですから、生まれるべくして生まれた曲だと思います。
  • また仏教では「山を開く」というのは修行そのものであって「山姥」は仏教と深く結びついた曲でもあります。
  • 舞っている自分(シテ)自身も、山姥とは何なのか?という問いかけを抱えて舞う、ところがある。
  • また技術的な面では、山姥の山廻り、この舞は体力的にも大変な曲です。

〈成田〉

  • 我々囃子方にとっては、よく出る曲、人気曲で年1回はやる曲です。
  • 囃子方は、出だしからワーッと10分間ほど演奏があるが、その後かなり長い時間やる事が無い。後シテの登場部分になって、囃子方の仕事が本格的に始まる。
  • この曲には秘伝と言うものがいっぱいある。たとえば深山(みやま)というこだま(﹅﹅﹅)のような表現。
  • 後シテの登場部分も面白い。フォルテッシモで始まり、ピアニッシモ、そしてシーンとして・・・シテが登場してくる。この流れは非常に珍しい。注目点がいろいろあります。

〈青柳〉

  • 「山姥」とは何なんでしょうか。

〈友枝〉

  • 曲舞(くせまい)」というものがある。——これは白拍子が舞うものですが——山姥は、まず成立していた曲舞を元に作られている。
  • お能らしいのは、全てをシテが舞う。(遊女の)百ま山姥が、本物の山姥に舞を乞われて舞うシーンがあるが、それはシテ(=山姥)が舞う。能楽ならではの感性。
  • 百ま山姥は当時のアイドルで、そのアイドルが舞っていた曲舞。シテとしては、山姥においては何としても曲舞を舞うというのがある。

〈成田〉

  • 若いころこの曲を認識して、最初に感じたのは、鬼なんだけれど優しい鬼なんだと感じた。

ここでお二人による山姥の一部の演奏を体験しました。

お話にあがった部分を体感。緊張感の高い演奏に、しばらく拍手が続きました。


〈青柳〉

  • 皆さん、素晴らしい体験をされました。ではあらためて、お話の続きを。どうですか。

〈友枝〉

  • 後シテ(山姥)が出てくる部分、山の風景が変わるんだけれど、その景色を謡うところは、目に見える外観ではなく、心の景色として謡わせている。

あら物凄(ものすご)深谷(しんこく)やな。あら物凄の深刻やな。寒林(かんりん)(ほね)()つ。・・・

  • 理解しようとした時に、意味はわからなくても、その()で感じることができる。
  • 名曲たる所以ではないか。

〈青柳〉

  • 今、とても大切なことをお聞きしました。
    僕ら観る側はどうしても
    「意味は何だ。」という風になるが、
    音で、という。
    これはとても大切なこと。

〈成田〉

  • (別の曲を引き合いにしつつ)山姥は非常に「こだま」を意識する曲です。

〈青柳〉

  • 途中で挟まれる「アイ狂言」があります。山姥って何だ、どういうもんだ?っていう狂言。たとえば、
  • 「鰐口が山姥になったってよ」「そんなはずないじゃないか」
  • 「山芋は毛がもじゃもじゃ生えているから、それが頭を出したんだよ」「そんなはずないじゃないか」
  • そんなやり取りがありますが、友枝さんは山姥をどう思われますか?

〈友枝〉

  • まず性別もある。
  • これは稽古ではないところで、祖父が言っていたが、山姥の出囃子は「まろみ」だと言っていた。
  • 陰と陽。山姥は特にそこを持つべきだと思う。
  • 後半の山姥は鹿杖(かせづえ)をついて出てくるが、杖の音が、山を廻る山姥の本性を表しているのかなと思う。

〈青柳〉

  • 鹿杖というのは、鹿の角を使った変わった形なんですが、持ち手の部分がついた杖で。長旅に適した杖のことです。
  • 成田先生、

〈成田〉

  • ——我々にとっては、まず出囃子が大仕事。
    小鼓大鼓は同一のテンポ感を刻むが、シテ方は「拍子あわず」の部分で、自在に謡うんです。
    我々の技術では、あしらい…会釈(えしゃく)と書いてあしらいと言うんですが、ほどほどにあわせる。これが非常に難しい。でも、ここを面白くしないと良い山姥にならない。非常に微妙さが必要で難しい。
  • そしてメインディッシュは「曲舞」。
    地謡8人と囃子方でテンションを高めていって、シテに気持ちよく舞っていただく。

〈青柳〉

  • 近代の演劇と違って、表現の解釈の幅が微量ですね。だからこそ感動も何百倍もあるのでは。

〈友枝〉

  • 僕も師匠から「解釈」を教わったことは一切無いですね。
    たとえば、さっきの拍子に合ってしまうとまったくつまらない。そういうことは教わるが、「解釈」というのは全く教わらない。

質問コーナー

〈参加者〉

  • 今日、武相荘での開催ですので、白洲正子さんとのエピソードがございましたら、ぜひ教えてください。

〈青柳〉

  • 私は白洲先生には骨董を通して知り合ったんですが、あるとき白洲先生に、ここにいる友枝雄人さんのお祖父さんの友枝喜久夫さんのお能が、大変良いから一緒に観にいこうと誘われました。
    当時私はお能は苦手だなと思っていて…そう言って遠慮しようとしたら、「お能だって骨董だよ!」って怒られた。
    「苦手なんて言ってたら、あんたの骨董は信用しないよ。」と言うふうに言われまして…。
    そして、友枝喜久夫さんのお能を見て、
    わからなくても良いものは良いんだ。と分かった。
    本当にその通りだと思いました。

〈友枝〉

  • 私は晩年しか存じ上げないのですが、ひとつ「私のすべての美意識はお能から来てる」ということを言われたことがあって、心に残る言葉です。

以上、第8回のレポートです。

毎回1回きりのライブであるお能、本番観劇の楽しみがぐっと広がりました。
出囃子が描き出す景色、拍子あわずの部分、クライマックスの曲舞。
そして、山姥とは一体何なのか。

本番でどう感じることができるか。今から楽しみです。

「山姥」の本番となる五蘊会は2019年6月15日(土)、
東京・目黒駅近くの喜多能楽堂での開催です。
[チケット情報] https://tomoeda-kai.com/schedule-noh/2385/