武相荘の講座レポート
茅葺き職人 相良育弥さんお話会
茅葺きの今とこれからVol.2 〜薄暮か黎明か〜

茅葺き職人で株式会社くさかんむりの代表・親方である相良育弥さんを講師にお迎えし、2024年3月31日(日)に開催した武相荘の講座のレポートをお届けします。相良さんによる講座は約1年半ぶりの開催でした。

全世界の人が異常気象を肌に感じ、COVID-19に苦しんだ数年を経て、今「環境保護」や「持続可能性」が世界中のコンセンサスとして強く打ち出されています。そんな中 “自然素材”というバックグラウンドをもつ「茅葺き」への注目がかつてないほどに高まり、相良さんの会社『くさかんむり』へも、武相荘の屋根のようなスタンダードな茅葺き屋根「以外」の相談・依頼が急増しているとのこと。

お話はまず、近代日本を振り返り、当時試みられた「新しい茅葺き」建築の数々の紹介から始まりました。

紫烟荘(堀口捨己・1926年)紫烟荘図集 (洪洋社)収録写真 From Wikimedia Commons

最初にスライドに映されたのは、堀口捨巳の「紫烟荘」(1926)、オランダのアムステルダム派に影響をうけて建てられたとのこと。ちなみに100年前というと茅葺き屋根がまだまだ一般家屋のスタンダードだった時代です。

続いて年代順に、今井兼次(1930)、白井晟一(1941)、アントニン・レーモンド(1962)、村野藤吾(1971)、さらに2000年代に入ってからの隈研吾氏による建築などを辿っていきました。

どの建物も、我々が日本の伝統建築として頭に浮かべる茅葺きとはまた違う、モダンで個性的なものばかり、参加者からは驚きの声が漏れていました。

スライドは海外の建築物へ。ヨーロッパでは、第二次大戦で一旦新しい建築が途絶えたものの、1990年代からオランダ、デンマークなどを中心に北ヨーロッパ諸国において、一種の社会実験を伴うかたちで茅葺きの『新築』が増加していきます。

そして今、
持続可能性、脱炭素、SDGs、サーキュラーエコノミー、エシカル、リジェネラティブ…などという言葉とともに、オランダなどでは、茅葺きの新築が加速的に増加しているとのこと。オランダでは、水辺にそびえる市庁舎や、新しい消防署(!)までが茅葺き。ヨーロッパ人の秀逸なセンスで景色と調和した、未来的な茅葺きを見ると、羨ましいような気持ちが湧いてきます。

続いて、相良さんがここ数年の間に手がけた、『屋根以外の』茅葺きの紹介へ。
日本では現状、消防法が壁となり、特に都市部では新築の茅葺き屋根を築くのは難しいそうです。しかし天然素材による美しい手仕事を、商空間・住空間に取り入れたいという要望は多く、それに応える形で様々な仕事を行われています。

壁面装飾や、アパレルの什器、期間限定のイベント会場や、子供たちの遊び場など、ヨーロッパの現代茅葺きに負けないぐらい、かわいらしかったり、楽しい、美しい茅葺きが、次々にスライドに写されました。

働き手についても明るい話題が。一時は職人の高齢化が進んでいた茅葺きの世界ですが、近年になって職人を志す若者が増えているそうです。
特に女の子に元気があり、神戸で一番多くの職人をかかえる相良さんの『くさかんむり』も、今では男女比は6:4、それに伴い考え方もリフレッシュされた部分もあり、一緒に働く仲間のことを改めて考えることで、自分たちも働きやすくなった、職場環境が良くなったとのこと。

職人としてだけでなく事業家としての相良さんのセンスを感じるお話でした。

―――講座は休憩を挟んで後半へ―――

さて、ここで、あらためて今回の講座の題名を思い出しましょう。

茅葺きの今とこれからVol.2 〜薄暮か黎明か〜

相良さん
「ここまで『黎明』の話をしてきたんですが、自分も茅葺きの世界でこれだけやってきて、仕事も社員も増えてきている状況があるんですけれど、世の中の茅葺きの状況を冷静に見渡してみると、まてよ、う~~~ん。となってしまうことがあります…」と腕組みをしながら始めました。

相良さんの地元であり、会社を構える神戸市。実は神戸市の茅葺き屋根はあの白川郷よりも多いそうです。市政も文化財保護に積極的で、茅葺きに関しても補助などの制度が手厚く、他地域に比べても茅葺きを存続しやすい環境が整っています。しかし、市の棟数データによると茅葺き住居は年々減っているそうです。

「補助の手厚い神戸市、かつ全国一多数の茅葺き職人を抱える会社『くさかんむり』があるにも関わらずこの減り方です。
全国の状況については(農水省は集計を出していないので)確かな数字は分からないのですが、日本中の職人はみんな知り合いなので、漏れ聞く印象からすると、日本全体では神戸市よりもさらに急速に茅葺きが減ってきている状況です。」

一方、ヨーロッパに目を向けてみると…

オランダは、九州ほどの面積の国ですがそこに日本の10倍ぐらいの職人がおり、新築が年2000棟のペースで建てられているとのこと。(驚きです!)
しかし、ここに一つ、相良さんが思う大きな問題が潜んでいました。それは…原材料である「茅」を輸入に頼っているという点。オランダの公式情報では75%が輸入となっています。(ほぼ中国から)。・

輸入の茅を使うことの問題点とは? まず一つは検疫の関係で消毒の必要性があり、消毒の薬剤に安全性の問題があること。直接触れる職人の健康に関わるし、よくわからないもので消毒された茅では、葺き替え時に畑に入れるなど自然へ帰すことも出来ないかもしれません。もう一つは外来生物の問題。
「いくら検疫を通したとはいえ生き物たちはしたたかなので、必ずくぐり抜けて入り込みます。」

相良さんは続けます。

「今スマホでインスタ(Instagram)を開いて、1本メッセージしたら一束〇千円とかで、1週間足らずで茅束が送られてきます。そういう世界です。

出来上がる建築物のことだけを考えたり、経済効率を優先すると、そうなってしまうんだけど、それをやったら駄目だと思うんです。――こんなことしてたらSDGsでも何でもない。」

「僕はオランダの感じには違和感がある。それには『営み』が欠けていると思うんです。」

――出来るだけ地元の素材を使って、使い終わったら今度は肥料として畑に帰すことができる。茅葺きにはこの一つのサイクル、『営み』が、まるごと含まれるはず。

「新しく茅葺きの世界に入ってきてくれる後輩たちの生活のことも考えると、茅葺き以外の仕事も、一つ一つが大切な仕事ではあるんですけれど…」

相良さんが修業時代から、大変な思いもした若いころから、それでも魅力を感じ、携わりつづけている茅葺き。

現場で出会ってきた、おじいちゃん、おばあちゃん達の写真をスライドに投影しながら、
「おじいちゃん、おばあちゃんたちの顔を思い出すんです。この人たちに顔向けできる仕事をしなければならない。」

「茅の育つ萱場には、万葉集にも詠まれた花が咲きます。野生の桔梗や、カワラナデシコ。茅のなかに生きる虫や、それを狙う鳥。小さな小さな萱ねずみ。ここには数千年間を通して結ばれてきた、人と自然の関係性がある。」

「それから茅葺きの良いところは『関わりしろ』があるところ。子供が参加できる場面が沢山ある。職人じゃない一般の方が関われる、関わりしろがある。みんなでワイワイ一緒にやったらいいんです。」

「年2000棟は、将来の仕事を思うと素晴らしく聞こえるけれど、輸入の茅に頼るという方向に、日本は走っちゃいけないと思っている。
幸い日本は、茅葺きの停滞と減少の時期があったことによって、オランダと同じような方向に走らずに済んでいる。国内で自給自足できているんで、これを大切にしてここから本当の意味での『黎明』にしていきたい。」

「最近、仏教の円相に興味があって、禅宗の。いろんな円相を調べては集めてるんです」

「今いちど、茅葺きの『営み』の部分をひとつひとつ丁寧にやっていきたいと思って。出来るだけ地元の素材を使い、使い終わった茅は、有機農家さんへ渡し土へ返す。当たり前のことを投げ出さずに、丁寧にやっていきたいなと。」

「いい『円』が描けたらいいなと思って。いい調子に掠れた感じもあるような、自分にとって皆にとってよい円を描けたらと思います。」

あらためて茅葺きの基本を、丁寧にやっていきたい。そう語る相良さん。
今年から稲作にも本腰を入れて取り組まれているそうです。(このお話は次回、続きを伺えそうですね!)

以上、武相荘の講座 茅葺き職人 相良育弥さんお話会
茅葺きの今とこれからVol.2 〜薄暮か黎明か〜 レポートでした。

参加者の皆さま、誠に有難うございました。
相良さんの次回登場にもご期待ください。

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