—— 子供たちが茅は諦めて瓦葺きにしようと話していたところ、正子が憤然として「私が生きているうちは茅葺きにして頂戴」と言い切った。その勢いに飲まれ、茅葺きの立派な屋根ができ上がったという次第。
もっともこのときは、周辺にも茅葺き屋根の家は数軒しか残っておらず、前回の棟梁はすでに高齢で屋根には上がれず、近所にあった茅場も荒れ放題で材料にならず、時代の流れで近所にも手のあるお百姓さんなどおらず……。正子の愛した近江から職人さんを招んで、琵琶湖の茅を使って完成させたので、お金もかかるわけである。
それから二十年の歳月を経て、武相荘の屋根も傷みがはげしくなった。公開(2001年〜)している以上、葺き替えねばならないが、えらいことだと思案しているとき、桂子の幼馴染みから、ちょうど横須賀の別荘で葺替えをやっているが、とても気持ちのいい若者集団が普請しているので観に来ないか、とお誘いを受けた。飛んでいったところ、京都は美山の茅葺き職人である中野誠さんのチームが、手際良く働いているのを目の当たりにした。〜(中略)〜
中野さんたちは、宇治川の河川敷に群生する長さ四メートルもある太い葦を主材に、比較的細くて背の低い北上川の葦を混ぜて使っている。密度に変化をもたせることで、通気や雨水の流れが変わり、屋根としての耐用年度が伸びるのだという。また、毎年刈り込むことで繊維を強くするという研究も重ねている。彼らは、日本の伝統文化といえる茅葺き屋根を世界に普及させるという夢を持っているのだ。
囲炉裏端で熱く語ってくれた若者たちのキラキラした眼差しを観て、酒を飲みながら、正子ともそんな話をして欲しかったな、と心から思った。——
牧山圭男 著「白洲家の日々 —娘婿が見た次郎と正子—」
(新潮社刊)より
武相荘スタッフによる当時のレポートです。
2006年12月から始まった母屋葺き替えの様子をご覧下さい。
《葺き替え前の屋根の様子》
《葺き替え工事始まる》
《間近で見る屋根の様子》
《最初の萱組み》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《屋根裏の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《棟上式の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《本日の作業の様子》
《完成した表側からの母屋》
撮影:速水諄一
【レポート】2017年3月11日、塩澤実さん・相良育弥さんの講演
「みんなのかやぶき」―参加する営みとしての茅葺き屋根―
【レポート】2015年10月25日、中野さん講演
武相荘の講座「未来の建物〜茅葺き屋根」