「みんなのかやぶき」―参加する営みとしての茅葺き屋根―(武相荘の講座開催レポート)

掲載日 2017年3月27日

茅葺屋 塩澤実さん自宅
伝統的な作法に則って建てられた茅葺の家。
(塩澤さんご自身のお家で開催されたオープンハウス時の写真)

今回の講師は、10年前の武相荘の屋根葺き替えにご尽力くださった茅葺職人のお二人です。
日本のみならず世界各国でも経験を積むなど、ユニークに活躍されているお二人のお話「参加する営みとしての茅葺き屋根」。屋根に参加する? 屋根が営み? それは一体どのようなものなのでしょうか。レポートをお届けいたします。


「みんなのかやぶき」―参加する営みとしての茅葺き屋根―
〈対談〉
塩澤 実 氏(しおざわ みのる)—茅葺屋代表
相良 育弥 氏(さがら いくや)—淡河かやぶき屋根保存会くさかんむり代表
2017年3月11日(土)@能ヶ谷ラウンジ


元々は師弟の間柄であった。今はそれぞれが独立して親方に。

“百姓”を目指していた相良さん、減反で米が作れず行き詰まりを感じていた時に出会ったのが茅葺き職人の塩澤さん。「百姓をしたい」という相良さんに「茅葺きにも百姓の100のうち10ぐらいはあるよ」と話した。この言葉が決め手となり相良さんは茅葺き職人の世界に入った。
茅葺というと建築の分野だと思っていたが、やってみると茅葺きには百姓のうちの10どころか100以上の業があり、どんどん惹き込まれていった。

みんなのかやぶき 塩澤実(しおざわみのる)氏 相良育弥(さがらいくや)氏 対談

デンマーク・レス島での相良さん
デンマーク・レス島で海草葺きを手伝う相良さん。
相良さんが代表をつとめる、くさかんむりのHPより

さて、茅葺きの「カヤ」というのは特定の植物の名称ではないんです。と塩澤さん。

身近にある草を、屋根のためにしつらえたものを「カヤ」という。このカヤが育つ場所が「茅場」。
伝統的な日本の茅葺き屋根には、ススキ、ヨシ、小麦わら(一部稲わら)、カリヤス、笹などの茅葺きがある(笹をのぞき一年草)。南北に長い日本では地域地域で、独自の素材や作法が存在する。
ところで、茅葺きは日本固有のものではない。イギリス(小麦わら)、オランダ(ヨシ)、ナイジェリア、モルディブ(ヤシ)、デンマークのレス島の海草(アマモ)など海外でも多彩だ。
(スライドで紹介)

農業としての茅葺き、自然の一部としての茅葺き

日本のカヤには主に、ススキ、ヨシ、小麦わらなどを用いる。これらのカヤ、そもそも屋根のために集めるのではない、田畑の肥料として使うために集められていた。屋根で使い古したカヤも栄養価の高い肥料になる。
(日本の田舎の水田風景のスライド/土手に群生するススキ指しながら)––これも茅。お百姓の仕事の一環として計画的に育まれている。
お百姓の仕事というのは素晴らしくて、この水田も稲だけを育てているのではなく、タニシやナマズ、イナゴも育ち食料となる。

カヤネズミの巣
カヤネズミの巣。塩澤さん茅葺屋のHPより。リンク先にはカヤネズミの写真も。

そして茅場も水田と同じように様々な動植物のすみかとなる。
茅刈り(茅の刈り取り)をしていると点々と出現する茅ボール! これはカヤネズミの古巣。カヤネズミはその名の通り茅場を住処とする小型(親指大)の動物。他にも、茅刈りで飛び出してくる虫を狙ってくる鳥(百舌など)も沢山。人に対する警戒心がうすい、彼らは茅場や茅刈りのことを知っている。

茅葺きという営みは2000年以上の歴史がある。
現代人にとって“屋根”といえば“瓦”や“スレート”が当たり前だが、これらは重たい。交通・運搬手段が発達したこの100年足らずで普及した。それ以前は何かというとずっとカヤだった。身近なところにある軽い草が屋根に使える。日本にはずっと茅葺きの時代があった。

茅刈りのことを知っているのは動物たちだけではない、たとえば「秋の七草」(相良くん秋の七草全部言える?と塩澤さん。–おどけながらも全問正解!の相良さん。)
七草の一つにかぞえられる桔梗など、今では自然に咲いているものを見る機会は少ないが、元来、茅場に生えた。万葉集で詠まれている草花も、ほとんどが茅場に生える。
茅葺き屋根や茅場とともにあった動植物の多くが、現在では残念ながらレッドブックに載ってしまっている。

(スライドを見ながら)
これは茅葺き屋根に住むマメコバチという蜂(標準和名コツノツツハナバチ)。
茅1本1本ストロー状になっている空洞を巣にする。大変小さい蜂。この蜂はリンゴの受粉に関係している。茅葺き民家の減少や農薬により一時数を減らしていたためリンゴは、人工授粉に頼らざるをえない時期があった。(現在はマメコバチが養殖されるようになり、人工授粉の機会はまた少なくなった。)

茅場の維持について

(スライドを見ながら)

  • 兵庫の例
    兵庫の例、もともと但馬牛(神戸牛)の放牧地であったところ、現在は放牧はされていないが、冬場スキー場として使われているため残っている。茅場は使われ続けることで残っていける。
  • 神戸市須磨区落合団地白川ランプ周辺
    大きな道路の土手を活用して、茅用のススキを育てている例。
  • JR大阪駅のごく近くにもヨシの原があり
    茅刈り体験もしている。

茅葺き職人と、その仕事
(現代にフィットさせるという視点)

神戸市登録文化財、前田家住宅見学会の様子(撮影:相良さん)

神戸市登録文化財、前田家住宅見学会の様子(相良さん撮影)

茅葺き職人今・昔

  • 昔は屋根を葺き替えるとススで真っ黒になった。真っ黒になり皮膚に染み込んで取れない。
    神戸などでは、茅葺き職人のことをカラスと呼んでいた。
  • 茅を運ぶヘルプの人が実は重要な役割を果たす。てったいさん/地回りと呼ばれる。
    積まれた茅(良い茅、そうでない茅いろいろ)を、うまく配分して職人に渡す、オーガナイザー。茅葺きには、良い材料と、有能なてったいさんが欠かせない。
  • 現在のお仕事
    茅葺き職人の仕事というと、文化財のような建物ばかりを葺き替えているように思われるかもしれないが、一般の民家もたくさんある。
    葺き替え作業については、白川郷なんかのいっぺんに大勢でワーとやるイメージを思い浮かべられる方も多いかもしれないが、本来、職人の仕事は屋根を美しく長持ちするように仕上げること。もっと時間をかけて丁寧にやる。
    ところで白川郷みられるような隣近所の持ち回りを「結(ゆい)」というが、あれは本来、厳しい自然環境・食料環境を前にした人間が生きていくための必要不可欠な共同体なのであって、思いやりや前向きな明るい気持ちだけでできたものではない。相応の掟を含む非常に重たいものでもある。
    現代にフィットする違う形、現代人にとって意味のある自然な形での茅葺きの普及を探っている。

(スライドで活動紹介)

  • 都市へ茅葺きを持って行き、体験してしってもらう活動。
    ビルの谷間にそよぐ茅葺き
    どんぐりのような茶室のような茅葺き
  • 音楽フェスの舞台
    凝った構造の茅葺き。(好評だが毎回同じものを作れない、頑張りすぎて赤字、と笑う。)
  • 瓦屋根の上に茅葺きを乗せた実験的な例
  • 塩澤さんの縁側のあるお家

みんなの茅葺き
茅刈り体験

様々な機会がある。主催していること。相談に乗って始まったこと。

(スライドで活動紹介)

  • 茅刈り体験会(様々な場所)
    茅葺きの材料となる茅を収穫する。
    茅は沢山必要。数年前からためておく必要がある。
    古来、冬は雪囲いにして、春は屋根裏に仕舞った。
    最近行われている茅刈りの紹介、体験会も盛況。

茅刈り体験小学生に手解きするのは相良さん。
(塩澤さん撮影/茅葺屋HPより)

  • 岐阜県恵那市岩村町の「茅の宿とみだ」
    春日井市立中部中学の校外学習。都会の子供たちも田舎体験で、茅刈りに参加。
  • 茅刈りが地元の中学生の恒例行事になっているの神戸市北区の公民館、八多ふれあいセンターと八多中学校。
  • 西宮市 六甲の古民家再生プロジェクト
    大学生が参加、毎年刈った分だけで徐々に直して、7年かけて棟上げ。
    ※屋根屋の棟上げは、大工さんの棟上げと違って仕上がりを祝う。
  • 体験の様子、親子で参加、子供も上手になる。
    茅刈り、良い草を選んで刈らなければ、使い物にならない。時間がかかる。
    一人でやると1日に4畳半ぐらいしか進まないけれど、皆でやると
    バーっと開けて入って面白い。ランナーズハイみたいな、茅刈りハイになる。
    茅刈りを体験すると、どれがよいカヤか分かるようになる。

茅葺きの機能性

見てきたように、身近にある草で、鎌一本あれば作れる。地下足袋を履いて。
あと男結び、これを覚えておけば色々できる。
実際、昔の家づくりは、大工さんは構造(柱など)を建てたら帰ってしまって、
屋根は家の人、近所の結の人で仕上げた。

(スライドに浮世絵)
この絵に描かれているカヤ。雨が降り出すとささっと広げる。
現代のブルーシートのように便利に使った。
カヤは軽く、防水性も非常に高い。蓑も同じ。
体験会では子供などは、あっという間に秘密基地が作れる。

(先ほどの、瓦屋根に茅葺きを被せた例)
非常にユニークな見た目だが、瓦や壁が熱くなりすぎたり冷たくなりすぎるのを防ぎ、夏も冬も快適になる。

(スライドに、茅葺きのハウス)
関西、三田市で見られるウド栽培のハウスの「とま葺き」。
ウド栽培には茅葺きがいちばん適している。

まとめ––参加する営みとしての茅葺き屋根

茅場を育んで、 茅刈りをして、 屋根を葺く、
それぞれの段階にも沢山やることがあり技術があり手間がかかる。
だが手間がかかるところに、いろんな人に参加してもらう余地があり、
当然、プロ、職人だけでやったほうが上手にはできるが、
子供も含め皆で出来るのが、茅葺の本当に面白いところ。そういう考え方でやっている。

「みんなに参加してもらうのが、かやぶきなんです。」
「みんなが関わった屋根は、みんなの屋根になる。」
「沢山の人が当事者としてかかわることが、それぞれの建物にとっての保障になる。」
「屋根を葺き終わってから始まる関係性がある。」

塩澤 実 氏・相良 育弥 氏

現代、トタン屋根に覆われた状態(缶詰)の茅葺きが、日本中にまだたくさん。これも開けていきたい。

屋根を葺くのって高いのでは?と思われてしまうが、
全てを専門家にまかせてしまえば、確かに高くなる。
敷居を下げる方法はある。
たとえば施主のみなさんが、茅を集めてくれれば、それほど高くない。
また、職人はアドヴァイザーとして参加し、みんなで作るという、それこそ本来の茅葺きらしいやり方もとれる。(施主がクオリティーに責任を持つ必要はあるが。)実現できることは意外と多い。みなさんもぜひ参加してみてください。


「みんなのかやぶき ―参加する営みとしての茅葺き屋根―」のレポートは以上です。
ここまでお読みいただき有難うございました。内容を削ることができず、今回は随分長いレポートになってしまいました。

人と自然との距離が、どんどん離れていってしまっているかのように感じる今日、
一方で、テクノロジーや文明との関わり方にも不安が付きまといます。

しかし今回、お二人の眼差しを通して、世界を見つめ直してみると
人と自然、文明の間に、新しい関係性を結べるということ、
先人の知恵に学び、それを生かすことで、再び獲得できる豊かな生活があることを知ることが出来たように思います。

今後のお二人の活躍に期待するとともに、
我々も、ぜひ機会をとらえて茅葺きに参加してみたいと思いました。

ご参加いただいた皆さま誠に有難うございました。